幽霊の正体は?
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連邦議会議事堂にはたくさんの幽霊が出ると噂されている。一人目の幽霊は連邦議会議事堂建設に従事していた作業員の幽霊である。作業員はある部分のアーチが不要だと主張し、それを証明するために石を引き抜いた。すると石が崩れ落ちてきてその下敷きになった。男は連邦議会議事堂を呪いながら息を引き取ったという。
二人目の幽霊は石工の幽霊である。彼も連邦議会議事堂建設に従事していたが、大工と喧嘩をして殺された。大工は石工を議事堂の壁に塗り込めてしまったという。時折、鏝を手に持った彼の姿が議事堂の壁に浮かび上がるという。
そして3人目の幽霊はピエール・ランファンという設計者で、報いられることなく貧困者墓地に葬られ、手に図面を抱えながら連邦議会議事堂をさまよっているという。
ホワイト・ハウスも幽霊話に事欠かない。ジョン・アダムズ大統領の妻アビゲイルの幽霊がまるで洗濯物を抱えているように腕を突き出しながらイースト・ルームに向かう姿が目撃されているという。
さらにはアビゲイルの息子のジョン・クインジー・アダムズの幽霊も登場する。アダムズは病死したせいで中断せざるを得なかった演説を終わらせようと議事堂に姿を現すという。
エイブラハム・リンカーンの妻メアリは降霊術にはまって、亡くなった息子と交信したと公言するような女性だったが、アンドリュー・ジャクソン大統領の幽霊がホワイト・ハウスの中で足を踏み鳴らしたり、罵ったりするのを聞いたという。いかにもジャクソンらしいと言えば、ジャクソンらしいがいったい何に腹を立てていたかはもちろん不明である。
実はハリー・トルーマン大統領もホワイト・ハウスの幽霊話を記録している。1945年6月12日、トルーマンがフランクリン・ルーズベルト大統領の急逝によって大統領に昇格してから二ヶ月後のことである。その日、トルーマンは書斎で一人で仕事をしていた。そして、妻に宛てた手紙を書き始めた。
「二ヶ月前の今日[1945年4月12日]、私は副大統領であることに満足して幸福だった。君はそれを思い出せるだろうか。しかし、現実とは思えないほど、事態は変わってしまった」
ここまで手紙を書いたトルーマンは先程から奇妙な物音がしていることに気付いた。そこで手紙に次のように書き足した。
「私はこの古い邸宅に座って外交について考え、報告を読み、演説の草稿を練っているが、その間中ずっと幽霊が歩き回っている音が聞こえる。廊下だけではなくまさにこの書斎でも。床が音を立て、カーテンが前後に動く。きっと老アンディ[アンドリュー・ジャクソン]とテディ[セオドア・ルーズベルト]がフランクリン[・ルーズベルト]について議論しているのだろう。もしくは、ジェームズ・ブキャナンやフランクリン・ピアースがどちらが国家のためにならないことを決めてしまったのか論じているのかもしれない。そして、ミラード・フィルモアとチェスター・アーサーがそおうした騒音に耐えられなくなって出てきたのかもしれない。しかし、私にはまだやらなければならない仕事がある。できれば毎日、私に手紙を書いてほしい」
トルーマンはよほど幽霊話が気に入っていたのか他にもいろいろと書いている。
「この古い場所[ホワイト・ハウス]は、一晩中、音が鳴るが、きっとそれは老アンディ[アンドリュー・ジャクソン]やアンディ・ジョンソン、もしくはその他の幽霊が歩いているのだろう。どうして彼らがここに戻って来たのか私は理解できない。ここが素敵な監獄であるにも拘わらず。私はこうした幽霊達がここにいると信じているし、私が毎日、目にする愚かな生者達と比べれば、幽霊達と出くわしてもたいして驚かないだろう」
「私の娘と2人の友達がリンカーン・ベッドルームで今晩、寝ている。ちょっと心配しすぎかもしれないが、リンカーンが出現して彼女達を怯えさせないだろうか。スタッフはリンカーンが何度も現れると証言している。クーリッジ大統領夫人もリンカーンを見たという」
トルーマンが言及しているように、ホワイト・ハウスの幽霊話で最も有名な人物はやはりエイブラハム・リンカーン大統領である。出現場所としてよく指摘されるのはリンカーン・ベッドルームである。今はそう呼ばれているが、リンカーンが生きていた当時はリンカーンのベッドルームではなく仕事部屋であった。
セオドア・ルーズベルト大統領は「私がリンカーンについて思う時、その不格好で飾り気がないが、強く悲しみに満ちた皺が深く刻まれた顔をいつでも思い出す。私は彼を様々な部屋や廊下で見た」と言っている。ただルーズベルトはリンカーンの幽霊を見たとは明言していない。
幽霊の目撃談を最初に語っているのはクーリッジ大統領夫人である。夫人は大統領執務室から外を眺めている背の高い男の影を見たという。そして、リンカーン・ベッドルームに泊まる客は誰もがリンカーンの幽霊話を聞かされたという。
1942年9月、オランダ女王ウィルヘルミナがホワイト・ハウスに滞在した時、ルーズベルト夫妻に奇妙な体験を語っている。ノックの音を聞いた女王がそれに答えて寝室を出るとリンカーンの幽霊を目にして卒倒してしまったという。
フランクリン・ルーズベルトとウィルヘルミナ女王
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エレノア・ルーズベルトも幽霊の姿を直接、見たわけではないが、深夜に働いている時、しばしばその存在を感じたと語っている。またエレノア・ルーズベルトの秘書として働いていたメアリ・エバンは、リンカーン・ベッドルームでベッドに座ってブーツを脱ぐリンカーンを見たという。他にもホワイト・ハウスのスタッフも次のように書いている。
「電気が点いたり消えたり、扉が開いたり閉じたり、誰もそこにいないのにノックの音が聞こえたり、エイブ[リンカーン]が廊下をさまよっていたりするのを見た」
リンカーン・ベッドルームに泊まったイギリス首相のウィンストン・チャーチルがバスタブから出たところ暖炉に寄りかかっているリンカーンと遭遇した。裸のままチャーチルは「今晩は、大統領。どうやらあなたは私を困った状態に置いているようですね」とリンカーンに言ったところ、突然、消えていなくなったという。
1984年にロナルド・レーガン大統領の娘モーリーンと夫のデニス・レヴェルは、ホワイト・ハウスでリンカーンの幽霊をしばしば見たと語っている。「時には赤色、時にはオレンジ色のオーラ」を持った幽霊が夜に現れたという。モーリーンから話を聞いたレーガンは、「どうして彼を階下に行かせてくれなかったのかい。いくつか彼に質問したいことがあったのに」と言った。
リンドン・ジョンソン大統領は、ジョン・ケネディ大統領の幽霊を見たとよく清掃員に語っていたという。登場する場所は暗殺された時に乗っていた車である。暗殺の真犯人が正義の裁きを受けるまで出続けると霊能者に語ったという。最近、ケネディを撃ったのは自分だと名乗り出た死刑囚がいたが、はたしてケネディの幽霊はもう出なくなったのだろうか。
ニクソン政権時代のホワイト・ハウスのスタッフの1人は、ある日、すべての灯りが消えているか確認するために二階に上がった。確認して階下に戻って数分後に二階の灯りが勝手に点いているのに気付いた。「もし私と一緒に行ってくれる人が誰かいなかったらとても二階には上がれなかった」とそのスタッフは告白している。
幽霊が実在したかどうかは証明できない。ただその真偽がどうであれ幽霊を見たと証言する人は確かに存在する。証言自体は史実となり得るが、幽霊の出現を信じるかどうかはあなた次第である。 |
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